中小企業を宝の山に変える「起業家人材」の活用

中小企業

安倍首相は、1月20日に行われた第193回国会における施政方針演説の中で、「中小・小規模事業者の倒産件数は26年ぶりの低水準となり、政権交代前と比べ3割減らすことに成功しました、」と述べ、アベノミクスの成果を強調しました。安倍首相の答弁にあるように、本年1月に発表された東京商工リサーチの調査によると、2016年の全国企業倒産(負債総額1,000万円以上)は8,446件であり、倒産件数は前年比4.1%減(366件減)。8年連続で前年を下回り、1990年(6,468件)以来の低水準を記録しました。

■自主廃業者数の推移
倒産件数が減少に転じたことは大変結構なことですが、一方で我々は、中小企業経営者の高齢化による中小企業の自主廃業件数にも目を向ける必要があると思います。1年ほど前になりますが、NHKは「クローズアップ現代」の中で、2016年の2月に「黒字企業が消えていく ~自主廃業3万社の衝撃」というテーマの特集を放映しました。番組では、黒字であり世界でも評価されるほどの高品質の技術をもつ中小企業が、後継者が不在という理由で自主廃業を決断していくプロセスを紹介していました。

2016年の推定自主廃業社数は約24000社と高い水準にあり、優れた技術力やノウハウをもち一定の収益を上げている企業であっても、後継者の問題等で自主廃業に追い込まれる例は、今や珍しいことではなくなりました。特に現在、中小企業経営者の平均年齢は60歳台の後半と高齢化が進み、早晩事業承継が問題となる企業は、まだ沢山残っているという現実があります。よって日本全体の雇用の70%程度を占め、企業数も380万社に上る中小企業の後継者問題は、今や社会問題として捉えるべきテーマなのだろうと思います。

■廃業した中小企業の経営状況
2013年の中小企業庁の調査によると、廃業した企業の資産状況、経営状況は、資産超過の企業が約41%、また経常黒字の企業も約44%となっており、必ずしも赤字続きで将来の見込みがないので廃業した、という企業ばかりではないことが読み取れます。経常黒字の企業が50%弱、経常赤字が1期のみの企業を含めると60%超にも達することから、廃業した企業の多くが、まだ余力がある中で廃業していることが分かります。

廃業時の資産と負債

廃業時の経営状況

このように、一定の資産をもち収益が上がっている企業であっても、後継者不在等の理由で廃業せざるをえない企業が多いという事実は、日本経済の活性化はもとより、雇用維持の面でも、極めて残念なことだと言わざるをえません。よって、この状況を少しでも改善し、根本的な解決に導く政策の遂行が、今後の日本経済の成長のために欠かせないものだと考えられます。

日本の中小企業の中には、「磨けば大化けする可能性のある強み」をもつ企業が少なからず存在します。それは必ずしも「技術」だけではなく、ノウハウや企業文化なども含まれます。但し経営者が高齢化している企業の場合、一般的に新たな分野に進出するなど、リスクを取ってまで経営革新に取り組むケースが少ないため、その強みが活かされないままで終わってしまう企業が少なからず存在することは、極めて残念なことです。

■経営革新計画の策定と若手起業家人材の活用
中小企業の生産性の低い要因として、IT化やグローバル化等への対応が遅れていることが指摘されています。これを解決するための有効な手法の一つは、国が主導する「経営革新計画」の策定とともに、中小企業に「若手起業家人材」を招聘するための社会的な基盤(インフラ)を整備することではないかと思います。

国は「経営革新計画」という新事業の創出を柱として中期経営計画を策定させ、その承認を受けた企業には、資金調達や販路拡大等の領域で便宜を図る制度を整えています。しかし中小企業経営者の高齢化の影響もあり、「経営革新計画」の承認を得ている企業は、まだ少数に留まっているという現実があります。他にも国は様々な補助金・助成金などを用意していますが、残念ながら未だ多くの中小企業が、十分に活用しきれているとは言えません。

中小企業の経営革新を軌道に乗せるためには、次期経営者を経営者の親族や社員からの登用だけに限るのではなく、外部からマネジメント経験を持ち、ベンチャースピリットあふれる人材を招聘するなどの施策も、併せて検討する必要があると思います。筆者がコンサルタントとして関わったケースだけでも、外部からスカウトした30代の若手社員が考案した新事業が、5年後にはその中小企業の屋台骨を支えるまでの主力事業に成長した例や、高齢となった経営者が30代前半の社員を思い切って役員に抜擢し、実質的な経営権を与えたところ、IT導入等の経営革新が進み、収益性が飛躍的に向上した例など、いくつかの成功事例があります。

また先日、テレビ朝日の「羽鳥慎一モーニングショー」の中で、岡山県にある旅館の女将の孫娘(22歳)が、実家が経営する旅館の経営危機を救うために、実家の旅館をコスプレ撮影の会場として提供するサービスを考案し、それをSNSで告知したところ、僅か5日間で57,000件もの問い合わせがあった、という事例が紹介されていました。このようなアイディアは、高齢の経営者ではまず思いつかないジャンルのものですから、経営に若手社員のアイディアを思い切って採用することは、中小企業の経営革新や成長を軌道に乗せるためには、極めて有効な手法だと言えるでしょう。

■経営革新を行う面での留意点と実現フロー
日本の中小企業の場合、経営者等の親族や金融機関等から人材を招聘するケースを除き、次期経営者候補を自社と全く関係のない外部から招聘するケースは、未だ稀だと思います、しかし外資系企業などでは、外部から経営者候補を採用するケースは決して珍しいことではありません。よって国や行政機関が主導して、後継者不在で困っている企業に対して、外資系企業等と同様に、外部から若手の経営者候補を斡旋出来る「人材インフラ」を構築できれば、将来廃業数も減少に転じるのではないかと推察されます。

最近では、上場企業などに勤務している20代~40代の有能な人材が、安定した地位を捨てて、ベンチャー企業に転職したり、地方創生の一環として地方で起業するなどのケースも増えつつあります。彼らの多くは収入や待遇などのメリットよりも、自らの「やりがい」を優先しており、かつチャレンジスピリットやアントレプレナーシップ(起業家精神)を併せ持つ人材が殆どだと感じます。

一方、外部から招聘する人材に経営を任せる場合、中小企業側は「経営と資本の分離」をしっかりと意識しておくことが肝要です。 よって、「若手の起業家人材」を外部から採用する場合は、一定時期を経過した後、原則として経営者は代表権を次期経営者に譲り、経営全般の裁量権を与えるとともに、自らは株主の立場で経営を支援するというように、将来の役割分担を明確にしておくことが大切です。また併せて、ガバナンスやコンプライアンス面などについても、整備をしておく必要があります。

次に想定される標準的な経営移譲のステップは、以下の通りです。

1. 次期経営者候補を役員として採用し、主に「経営革新領域」の事業を任せる:

次期経営者候補には、主に新規事業や新サービスの開発など業務を任せ、「経営者は既存事業」「次期経営者候補は新規事業」といった役割分担を行い、お互いに協力して「経営革新」を推進する。

2.次期経営者候補は「経営革新計画」等の中期経営計画を策定し、その達成をコミットメントとして定める。

国が定める「経営革新計画」は、3年間で付加価値を9%以上、経営利益を3%以上伸長させるなど、高い達成目標が課されています。この目標達成のための経営革新計画と達成までのアクションプランを、主に次期経営者候補が主導して策定する。

3. 一定期間が過ぎた時期に、経営権を「次期経営者候補」に移譲する

一定期間が過ぎ、経営革新領域での成果が上がり始めたら、経営者は経営権を次期経営者候補に移譲し、自らは株主(投資家)や顧問といった立場から、新経営者の側面支援を行う。

■必要とされる「逆転の発想」
上記を実現するためには、国や都道府県などがリーダーシップを取り、中小企業経営者には、外部の「若手起業家型人材」の採用を促すとともに、「若手起業家人材」に対しても、中小企業の魅力や経営者の仕事のやりがいなどをアピールする必要があると思います。併せて、事業継承を検討している経営者と「若手起業家人材」とのマッチングの機会を増やす施策を展開することが、極めて重要な施策となるはずです。

この施策が軌道に乗った場合、中小企業が元来持っていた技術力やノウハウなどの「強み」を活かした新事業などが創出されるので、海外の投資家などからすると、「日本の中小企業は宝の山」に見えてくるかもしれません。以上から、今求められるのは、中小企業の事業承継を経営革新のトリガーとして捉える「逆転の発想」ではないかと思います。
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ジャンル : ビジネス

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プロフィール

川崎 隆夫

Author:川崎 隆夫
株式会社デュアルイノベーション代表取締役。 経営士/経営支援アドバイザー。経営学修士(MBA)。専門は新規事業開発、マーケティング戦略立案、リーダー人材育成など。 また最近は、教育機関・経営支援団体等でのセミナー、講演やメディア出演等にも積極的に取り組んでいます。
【メディア出演実績】 
日本テレビ系列「情報ライブ・ミヤネ屋」、テレビ東京「ニュース」、NHK-BS1,日経産業新聞、東京新聞、週刊SPAほか多数 

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