斎藤佑樹投手は「あの夏の成功体験」を捨て去ることができるのか?

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11月22日、北海道日本ハムファイターズの斎藤佑樹投手と有原航平投手は、車で移動中に対向車がスリップして横転した事故に遭遇し、助けを求めていた男性を救出しました。斎藤投手たちの素早い行動のおかげで、被害者は大きな怪我もなく救助されたとのことです。

■斎藤佑樹投手の今年の成績と願望
一方で、ファンとしてずっと斎藤佑樹投手を応援してきた筆者に取って、今年残念だったことは、北海道日本ハムファイターズが日本一を成し遂げたにも関わらず、斎藤投手が野球で話題になることが殆どなかったことです。どちらかというと、週刊誌等でのネガティブな報道が目立った1年だったと思います。

現在アマチュア時代に輝かしい実績を上げながら、プロ野球では十分に才能を発揮できていない選手の代表格として、多くの人の脳裏に真っ先に浮かぶのは、残念ながら斎藤投手だろうと思います。斎藤投手といえば、誰でも知っていることですが、2006年に早稲田実業高校のエースとして夏の甲子園に出場し、決勝と決勝再試合の2試合で駒大苫小牧の田中将大投手との投げ合いを制し、見事に全国制覇を成し遂げた「輝かしい実績」を持っています。

その後入学した早稲田大学でもエースとして活躍し、大学日本一を達成するとともに、大学4年間で通算31勝323奪三振を記録するなど、アマチュア野球界の「スーパーエリート」として、卓越した実績を残しています。

しかしながら、鳴り物入りで北海道日本ハムファイターズに入団以降、斎藤投手は肩の故障の影響もあり、入団して今年で6年が経ちましたが、ファンが期待しているレベルの活躍を見せているとは到底言えません。今年の成績も「1軍:0勝1敗 防御率4.56 、2軍:3勝6敗 防御率4.50」と、決して芳しいものではありませんでした。

しかし筆者が気になったことは、前述の交通事故直後に行われたトークショーで、女性司会者から「死ぬ前にやりたいこと」を聞かれた際に、斎藤投手が、「鼻で笑われるかもしれませんが、死ぬまでに2桁勝利したいです…」と発言したことです。もちろんプロ野球の投手が、一流投手の証でもある2桁勝利を目指すことは、決して悪いことではありません。しかしながら、達成時期は未定ながらも、将来「2桁勝利」を目指すことが、現在の斎藤投手にとって、果たして現実的な目標設定であると言えるのでしょうか?

■斎藤投手の体格と長所
前述の交通事故の報道の中で、斎藤投手と有原投手が並んで写っている写真を見て、筆者がまず感じたことは、「斎藤選手は、思ったよりも華奢で小柄だな。」ということです。早速北海道日本ハムファイターズの公式サイトで確認してみると、有原投手は、「身長189㎝、体重100kg」という堂々とした体格をしているのに対して、斎藤投手は「身長176cm、体重76kg」となっており、投手としては決して恵まれた体格とは言えません。

参考までに、日本ハム投手陣の中で斎藤投手が目標としている2桁勝利を達成した他の投手の体格を見ると、大谷翔平投手は「身長193cm、92kg」、高梨裕稔投手は「身長187cm、体重85㎏」、増井浩俊投手は「身長181㎝、体重70㎏」となっており、増井投手の体重を除き、全ての投手が体格面で斎藤投手を大きく凌駕しています。現在のプロ野球では、150km前後のストレートを投げる投手は、珍しい存在ではなくなりました。その一因として、トレーニング等による投手の体格向上があるようです。

一方で、体格に恵まれていない斎藤投手が、なぜ高校や大学時代に卓越した成績を残せたかというと、「ピンチに動じない精神力」と、「優れた投球術」を併せ持っていたからだと言われています。しかしプロ入り後は、斎藤投手が持つ「心技」の面での長所が現れた試合は、極めて少ないように感じます。

■斎藤投手の目標達成プロセス
日頃の斎藤投手の言動等から推察すると、斎藤投手が描く自身の「あるべき姿」は、今でも平均140km台後半のストレートと、切れ味鋭い変化球を武器に三振の山を築いた、あの夏の甲子園に於ける「剛腕投手」としての姿ではないかと感じます。確かに2006年の夏、斎藤投手は最速149kmのストレートと鋭い変化球、類い稀な投球術等を駆使して、甲子園優勝投手という栄冠を手に入れました。その後入学した早稲田大学でもエースとして活躍したため、アマチュア時代の「成功体験」を、そのまま引きずってしまうのは致し方ないことなのかもしれません。

よって、プロ入り後に肩を故障して球速が落ちた現在でも、斉藤投手はリリーフよりも、「先発完投型」の投手として活躍したいという願望を持っているように感じます。おそらく斎藤投手の意識の中では、「先発完投型の投手」の価値が「リリーフ投手」よりも上位にあるため、自分自身が「リリーフ投手」として活躍するイメージを描きにくいのかもしれません。

同様のケースは昨今、ビジネスの現場でも散見されます。一流大学を卒業して大企業に入社し、様々な成功体験を持った管理職クラスの人材が、諸般の事情により中小企業等に転籍を余儀なくされるケースが近年増えていますが、大企業から中小企業に転籍して成功している人は、決して多くないという現実もあります。

通常、問題とは「技術的な問題」と「適応を必要とされる問題」に大別されます。「技術的な問題」は、その領域の専門知識やスキルを修得したり、向上させたりすることで解決に向かいますが、難しいのは「適応を必要とされる問題」への対応です。

中小企業の問題に対処するには、大企業社員でのやり方や成功体験等を一旦脇に置き、転籍先の中小企業の業界構造や組織等を十分に理解した上で、問題解決に当たっていかないとなりません。 よって、大企業から中小企業に転籍する際には、まず大企業の社員であったというプライドを捨て、現場の細かな問題に向き合おうとする意識変革が求められるのです。

話を斎藤投手に戻すと、今年2軍でも「3勝6敗 防御率4.50」という成績に終わったのは、筆者の私見に過ぎませんが、大企業から中小企業に転籍して成果を上げることができない管理職と同様に、過去の成功体験が逆に仇となり、「2軍」という環境に、十分適応できなかったためではないかと思います。

常識的に考えて、肩に何の問題も無かったとしたら、斎藤投手ほどクレバーで経験豊富な投手が、2軍の選手にここまで簡単に打ち込まれるとは考えにくいからです。 よって筆者の想像ですが、斉藤投手は自分自身が課題として捉えているストレートの球速アップなどの「技術的な問題」の解決ばかりに意識が向き、「適応を必要とされる問題」の範疇となる対戦チームの打撃分析や、配球面での改善などの面が、やや疎かだったのではないかと思うのです。

そこで今後、斎藤投手が覚醒するためには、次のようなステップを経る必要があるだろうと考えられます。

1.過去の「成功体験」と訣別し、現在の自分自身の「力量」を客観的に捉える。そこで自分自身をリリーフ投手として再認識した上で、まずは2軍戦で短いイニングを確実に抑えることを目標とし、その目標達成に必要な「技術」の向上と、対戦相手の打者の研究等の準備を徹底し、2軍での勝利数、防御率等の大幅改善を実現する。

2.次の段階として、1軍でもまずは「リリーフ投手」としての地位を築くために、より綿密に事前準備や配球等の研究を行うことで結果を残し、首脳陣の信頼を得る。

3.1軍のリリーフ投手としての実績をもとに、今年の増井投手のように先発ローテーション入りを図る。

以上のように、いきなり1軍で2桁勝利を目標とするようなことはせず、各段階で現実的な目標を設定し、それをひとつひとつクリアしていくステップを踏んでいくことが、斉藤投手が目指す「あるべき姿」に近づく近道であると思います、

■斎藤投手が目指すべき姿
MLBで活躍している上原浩治投手は、故障をきっかけとして先発からリリーフに廻り、大成功を収めています。特にMLBのリリーフ投手の中で、最も遅いと言われるストレートとスプリットの2つの球種だけで、メジャーリーガーを押さえることができているのは、上原投手が毎試合しっかりとした事前準備を行ってから、試合に臨んでいる証左だと思います。

同様に、かつて阪神や広島で活躍した江夏豊投手も、往年はリリーフに廻り全盛期の剛速球を武器とした投球から、巧みな配球に基づく頭脳的なピッチングに投球スタイルをガラッと変えて、クローザーとして成功を収めました。

上記の通り、現在の斎藤投手が目指すべき姿は、先発完投型の「エース」ではなく、往年の上原浩治投手や江夏豊投手のような「頭脳派のリリーフ投手」ではないかと考えられます。斎藤投手のファンは、2桁勝利を上げることもさることながら、短いイニングでも良いから、毎試合しっかりと結果を残すことを期待しているはずです。来年こそは、斎藤投手が札幌ドームで躍動する姿を見せてくれることを、1ファンとして大いに期待しています。
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テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

プロフィール

川崎 隆夫

Author:川崎 隆夫
株式会社デュアルイノベーション代表取締役。 経営士/経営支援アドバイザー。経営学修士(MBA)。専門は新規事業開発、マーケティング戦略立案、リーダー人材育成など。 また最近は、教育機関・経営支援団体等でのセミナー、講演やメディア出演等にも積極的に取り組んでいます。
【メディア出演実績】 
日本テレビ系列「情報ライブ・ミヤネ屋」、テレビ東京「ニュース」、NHK-BS1,日経産業新聞、東京新聞、週刊SPAほか多数 

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