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日本のMBAは、本当に「無用の長物」なのか?

ハーバード

最近日本のビジネススクールについての議論が、活発になっています。しかし以前から、日本のビジネススクール(経営大学院)やその修了者であるMBAホルダーの価値については様々な意見があり、その中にはネガティブなものも少なくありません。そこで筆者も日本のビジネススクール修了者の「はしくれ」として、この問題を一度整理してみたいと思います。

■ MBAの分類
米国では現在、MBAの学位を取得できるビジネススクールは800校以上あり、毎年十数万人もの学生がビジネススクールで学んでいると言われています。日本でも「専門職大学院制度」が制定されてから、MBAの学位を取得できるビジネススクールは急増し、現在100校近いビジネススクールが存在しています。このことから、欧米はもとより、日本でも「MBAの大衆化」が進んだ結果、一部のトップ校を除き、「MBAホルダー=ビジネスエリート」といった図式は、既に崩壊しつつあるようです。

なおMBAプログラムは、学習の形態により、以下のように分類されます。

1.フルタイムMBA :一般の大学と同じく、昼間に授業を行う形式。ハーバードやスタンフォード、ウォートン等トップスクールのMBAの多くは、このプログラムを提供している。

2.パートタイムMBA: 主に働いている社会人を対象として、夜間や休日に授業を行う形式。 日本のビジネススクールの多くは、この「パートタイムMBA」を提供している。

3.通信制MBA他: 主に遠隔地の学生を対象として、オンライン等で学習し、学位が取得できるプログラムがメイン。

欧米では、ハーバードやスタンフォードなどに代表される「フルタイムMBA」プログラムが主流であり、各スクールの評価は「多様性・国際性」「教授陣の研究力」などビジネススクールの本質的な面に加えて、卒業生の「就職決定率」「給与上昇率」「企業の人事担当者の評価」など、様々な角度から行われています。

特に著名ビジネススクールが卒業生に提供する価値としては、「著名スクール出身のMBAホルダー」という社会的ステイタスや人脈以外に、「コンサルティング会社や投資銀行等、高収入が得られる業種への就職が有利になることによる、収入の大幅増の実現」「経営者や起業家になるためのキャリアパスの提供」といった要素が強いように感じます。

一方日本では、昼間働いている社会人を主対象として、夜間や休日に開講する「パートタイムMBA」が主流です。よって日本のビジネススクール(MBA)について語る場合は、ハーバードやスタンフォードなど欧米の「フルタイムMBA」を提供するスクールとは、目的や提供価値、学習形態等が全く異なるため、予め別物であるという認識を持って、分けて考える必要があります。

日本では、欧米で主流の「フルタイムMBA」を提供しているビジネススクールは少なく、慶応や一橋など数校に留まっています。その理由としては、日本社会は欧米と異なり、「終身雇用」を前提として成り立っており、欧米のように転職によりキャリアアップを図っていくという考え方自体が、そもそも日本社会に定着していない点が大きいと言われています。また「フルタイムMBA」に通うことで2年間キャリアを中断することは、日本社会では未だ不利になる側面もあるからです。

一方日本の「パートタイムMBA」の場合、一般的に企業派遣生の比率が高く、かつ平均年齢も「フルタイムMBA」の学生よりも高い傾向があることから、「コンサルティング会社や投資銀行等に転職して収入を増やしたい。」「転職により経営層のポジションに就きたい。」などといった目的よりも、「自社の経営課題解決に貢献したい。」「もっとビジネスパーソンとして成長し、自社の発展に寄与したい。」などを目的として学ぶ人のほうが多く、その点が欧米の「フルタイムMBA」と根本的に異なる点だろうと推察されます。

以上のように、日本と欧米では学生がビジネススクールに求めるものが異なる訳ですから、単純に欧米と日本のビジネススクールを比較して、「日本のMBAは価値がない、」「日本にMBAは不要だ。」などと即断してしまうことは、少々乱暴ではないかと感じます。

■日本のMBAに関する批判
その他、日本のMBAについての否定的な意見の代表的なものは、以下のようなものです。

1.「日本のMBA」は、欧米のMBAと異なり、学歴の面で全く評価されない。よって、日本でMBAを取得する意味は無い。

確かに日本企業の中途採用の現場などでは、前職での実績が重視され、MBAという学位そのものを評価する企業は、まだ少ないのは事実だと思います。一方で、企業経営全般に関する知識やスキルを修得している人材に関心を持つ日本企業は、この数年確実に増えています。

例えば日本でMBAを取得した人が、中途採用の応募の際に卒業論文も提出したところ、その内容が評価されて入社に至った、といったケースや、中途採用に応募した際、ビジネススクールに通ってMBAを取得したことが評価され、前職は営業職であったのに、経営企画部門での採用が叶った、などといったケースは、いくつも見られます。

特に最近では、自社の経営幹部候補向けの研修に、MBAプログラムを導入する企業が増加しています。このように日本企業であっても、MBAという学位までは必要とされなくても、経営全般に関して確かな知識やスキルを持った人材へのニーズは、近年急速に高まっていますので、「日本企業はMBAを評価しないのだから、日本でMBAを取得しても意味がない。」というのは、少々早計ではないかと感じます。

2.日本のMBAホルダーは入試倍率が低く「全入状態」のスクールも多いので、欧米のMBAホルダーと比較して、日本のMBAホルダーの能力は総じて低い。

この数年、日本でもビジネススクールの数が増えたため、以前であればとても入学できないようなレベルの低い学生も入学している、といったケースが増えているのは事実のようです。これは専門職大学院制度の発足後に、様々な大学が安易にビジネススクール(経営大学院)を設置し、乱立を招いた結果だと推察されます。

今後日本のビジネススクール全体のレベル低下を防ぎ、「日本のMBAホルダー」の価値向上を図るためには、日本でも「国際認証の日本版」的な認証制度を発足、定着させることで、各スクールの「教育品質」の維持向上を図るとともに、基準を満たさないスクールについては、認可の取り消しや助成をカットするなど、「淘汰の仕組み」を導入する必要があるでしょう。

一方で、「学生の質」について日本と欧米を比較するのであれば、日本の場合は「パートタイムMBA」が主流なのですから、ハーバードなどの「フルタイムMBA」の学生と比較するのではなく、欧米の平均的な「パートタイムMBA」の学生と比較しないと、そもそも比較にならないと思います。

■日本のビジネススクールに求められる多様性
日本のビジネススクールの問題点として、「日本にはハーバードやスタンフォードなどの欧米トップクラスのビジネススクールと肩を並べられるスクールが少ない。」といった指摘もありますが、それ以上に深刻なのは、日本独自の社会的課題を解決することを目的としたMBAプログラムを提供するビジネススクールの数が、極端に少ないことだと思います。

以前、自民党の小泉進次郎衆院議員は、「日本にも農業に特化したMBAが必要だ。」といった趣旨の発言をされていますが、農業に限らず、日本でも今後産業別のビジネススクールや、地域創生等の社会問題の解決にフォーカスしたビジネススクールが、もっと増えることが望ましいと思います。

欧米では、各産業に特化したビジネススクールが発達しています。例えばファッションビジネスに特化したスクールや、観光業界に特化したスクール、医療・ヘルスケア系のスクールなど、個性的なプログラムを持ったビジネススクールが、いくつも存在します。 一方日本では、このようなプログラムを提供しているビジネススクールはまだ少数ですので、今後は欧米のように、日本のビジネススクールも多様化していく必要があるでしょう。

また日本企業の99%以上、勤労者の70%以上を占める中小企業の生産性向上は、日本経済の活性化の意味においても喫緊の課題のはずですが、中小企業をケーススタディの事例として扱うビジネススクールは極めて少ない、という現状があります。よって、中小企業の経営課題を主テーマとして研究、学習するビジネススクールの数を、もっと増やす検討も為されるべきではないかと思います。

以上のように、日本のビジネススクールは、いたずらに欧米の著名ビジネススクールの後追いをするのではなく、「グローカル」の時代なのですから、産業振興や地方創生、中小企業対策など、日本独自の課題にフォーカスしたMBAプログラムの開発についても、併せて検討する必要があるのではないかと思います。
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テーマ : 経営コンサルタント
ジャンル : ビジネス

プロフィール

川崎 隆夫

Author:川崎 隆夫
株式会社デュアルイノベーション代表取締役。 経営士/経営支援アドバイザー。経営学修士(MBA)。専門は新規事業開発、マーケティング戦略立案、リーダー人材育成など。 また最近は、教育機関・経営支援団体等でのセミナー、講演やメディア出演等にも積極的に取り組んでいます。
【メディア出演実績】 
日本テレビ系列「情報ライブ・ミヤネ屋」、テレビ東京「ニュース」、NHK-BS1,日経産業新聞、東京新聞、週刊SPAほか多数 

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